都会も田舎も両方好き店主のこだわりが凝縮

母が営んでいた焼肉店をリニューアルして新装オープン

2024年5月、白山市を象徴する手取川沿いの自然に囲まれたのどかな地域に、蕎麦カフェ「八ッヤエ門（はっやえもん）」がオープンしました。店を営むのは地元出身の東野里加（りか）さんです。祖母の代には民宿、母の代には焼肉店として使われていた築100年ほどの建物を自分たちの手でリフォームし、新たな店舗として生まれ変わらせました。

東野さんは専門学校を卒業後、美容師として働きながら声優になる夢を叶えるためにお金を貯め、20代半ばで上京。声優を養成するスクールで学んだのち、声優として活躍しながら講師として指導を行っていた経歴を持ちます。舞台やリポーターの仕事経験もあるだけでなくフォトグラファーとしての顔も持つ、多才な人物です。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにお母様が店を閉めたことから「蕎麦屋さんをやりたい」と思い立った東野さん。Uターンをして地元で蕎麦打ちを学び、準備期間を経て開店に至りました。ちなみに店名の「八ッヤエ門」は東野家の屋号なのだそうです。

自分が納得した、おいしい料理を提供したい

看板メニューは手打ちの田舎蕎麦と蕎麦ガレットの二本柱です。「クマやイノシシが出るような田舎ですが（笑）、おしゃれなカフェをやりたいという思いがありました。東京にいた頃は食べ歩きが趣味だったので、これまでに出会ったおいしい料理を自分の店で提供したいと思ったんです」と東野さん。

ドリンクは自家製ジンジャーシロップを使ったはちみつドリンクをはじめ東野さんが東京時代にお気に入りのカフェでいつも頼んでいた「オレ・グラッセ」（二層からなるカフェオレ）という気の利いたメニューもあります。おすすめメニューを聞くと「全部こだわりです！」と一言。「これも食べてみて、あれもおすすめです、と、どんどん提案したくなるんです」と笑顔で語ってくれました。

蕎麦は「雑味がないのが自慢」。コシがあってつるりとした食感の太麺に旨みが凝縮した蕎麦つゆが絡んで、どんどん箸が進みます。また、東野さんの弟で、フグの免許を取得しているスタッフが目利きを活かして手掛ける木曜限定の海鮮丼も好評です。

料理やドリンクは手作りにこだわり、サラダのドレッシングも自家製しているほか、蕎麦の薬味である大根や大葉、ネギ、ミョウガは店舗に隣接する畑で栽培。営業中には「ネギ足りんから採ってきて〜！」「大根採ってきておろしてくれる？」なんて言葉が飛び交うことも。「作りたて・採れたて」が味わえるところが魅力です。

店舗の「推し活」利用や、多店舗展開も視野に入れて

オープンしてまもなく人気店となった「八ッヤエ門」。地元の人だけでなく、遠方からもお客様が訪れる様子に、東野さんは「せっかく来てくれるお客様をがっかりさせないようにしたい」と意気込みを語ります。

「私が声優を目指していたのはアニオタ（アニメオタク）だからなんです。オタクの世界もオタクの気持ちもよくわかるので、そのうち夜を貸切営業にして、推し活に使ったりスタジオとして活用したりと、いろんなことが楽しめるようにしてみたいですね」といい、アイディアは尽きません。「ゆくゆくは二店舗目、三店舗目をオープンしたい」と目を輝かせて話す東野さんの姿に、「ハッヤエ門」を応援する人が多くいる理由がわかりました。

今回募集するのは、ホール・キッチン全般を担うスタッフです。求める人物は「とにかく笑顔と愛嬌があればオッケー！」と東野さん。職場は和やかで、働いているスタッフも地元の同級生や親戚が多く、おしゃべりが絶えない言葉通り「アットホーム」な雰囲気です。

オープン当初から働いている林さんに話を聞きました。「仕事は接客も調理も楽しいですし、お客さまが蕎麦の香りを楽しんでいる姿を見ると嬉しいです。個人的には、白山市の厚揚げを使った『厚揚げ蕎麦』がおすすめです。蕎麦が隠れるほどの大きな厚揚げを特製出汁に漬け込んでおり、噛んだ瞬間、口の中いっぱいに出汁が広がり最高の味わいです」。

「里に加わる」人として

「この仕事のやりがいは、食事を終えたお客さまから『おいしかった』と言ってもらえること。その一言を聞けただけで心の底から嬉しいですし『お店をやってよかったー！』って思います」と東野さん。

東京で20年以上暮らしていたとのこと、「都会が恋しくなりませんか？」と質問したところ、「都会も好きだけど、生まれたときからここだから田舎も好きです。小さい頃は木に登って柿を採ったり自然のなかで遊んだりする活発な子どもでした。私の名前って『里に加わる』って書くんですよね。だから、ここに戻ってくるのも運命だったのかなって。それに、新幹線も通っているし東京へ行こうと思えばいつでも行けますからね」とにっこり。

のどかな田舎に誕生した、おしゃれな蕎麦カフェ。東野さんのパワフルで誰もが笑顔になってしまうようなエネルギーをもった人柄からは、お店を通じて癒しや安らぎを提供するだけでなく、地域にとって刺激を与えるような存在になっていく、そんなこれからの姿が見えたような気がしました。